わたしたちは「健康が一番」とよくつぶやきます。もちろんサプリメントを朝昼晩飲みましょうという話ではありません。
このシリーズでは、これまでシニアライフの健康と長寿についてご紹介してきました。60代も半ばを過ぎると、フレイルや要介護に注意すること、すぐれた断熱性の住環境を整えること、そして暮らしの基本を支える食事・運動・睡眠などの質を高めることが重要になってきます。
では、わたしたちはなぜ「健康が一番」だと考えるのでしょうか?健康が一番とは「健康が人生のすべて」という意味でしょうか?「健康のためなら死んでもいい」というギャグがありましたが、健康のことを気にしてばかりいる生き方に疑問を投げかけた皮肉でした。
健康が一番の理由とは……。健康なら人は幸福感に包まれるからです。古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「幸福こそが人生の最高善」と論じました。つまり、人生の究極は幸福に尽きるというわけです。そして、健やかさは幸せになるための大切な要素です。本シリーズを「健幸」と名付けている所以でもあります。
今回は「交流」をテーマとして、他人とのつながりや社会との関わりという側面からシニアの生活観や日々の活動、ひいては健康のヒントを探ってみることにします。
目次
つながれば心と身体が元気溌剌、生き方さえ変わる
軽やかに交流できる人もいれば、交流の機会にあまり恵まれなかったために、人付き合いや集いを苦手と感じている人もいます。
たとえば一人で散歩に出掛けるとしましょう。同じコースを歩いていると顔なじみになるものです。顔なじみになるとベンチに腰掛けて話し込む人もいます。一方、軽く会釈をする程度で、すぐにその場を立ち去る人もいます。どちらがいいとか悪いとかという話ではありません。
ライフスタイルは十人十色、生き方も人それぞれ。「これが十全十美の理想だ」などと安易に決めつけることはできません。
しかし、軽い会釈だけでは「何か足りない」と感じているなら、また、いずれはあまり縁のなかった人たちともつながることになるだろうと思っているなら……挨拶プラスアルファへと一歩踏み出してみるのはどうでしょう。会釈に加えて「おはようございます」と声を出すのも一歩です。「朝からいい陽射しですね」というのも、「今日はカメラ持参ですか?」と問うのも、一歩だと思います。
こういう一歩一歩の積み重ねが、長い目で見ると、他人との交流や社会参加につながっていきます。他人と接している、ことばを交わしているという自覚は心身を健やかにし、ひいては人生を豊かに幸せにしてくれます。交流の場や参加する社会は必ずしも遠くのどこかである必要はなく、まずは家庭の周縁にある「地域」ととらえればいいでしょう。
リアルな交流が健康にいい3つの理由
インターネット上の仮想交流が活発になりました。その役割も意義も大いに評価できます。しかし、パソコンやスマホに向かっていても、部屋にいるのは一人ぽっちの自分です。SNSを活用するシニアは頼もしいかぎりですが、同時に、人と人が同じ場に居合わせて息づかいを感じるリアル交流の機会も持ちたいものです。
地域で交流する人たちには健康な人が多いと言われています。いくつかの理由があります。
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癒され励まされる
人生には失敗や悲しい別れがつきもの。高齢になってからの苦しみや悲しみを一人で耐えるには限界があります。そんな時、日頃から交流している地域の人たちのことばに癒され、一緒に趣味や活動に打ち込むうちに勇気づけられるようになります。 -
心身のバランスが保てる
ちょっとした会話や世間話が緊張を緩めてくれます。孤立状態とは違って、誰かと共にいれば頭が働き、表情が豊かになり、身体も反応します。実際、愉快に交流している時には代謝がよくなり、自律神経やホルモンがバランスよく保たれることがわかっています。 -
情報が共有できる
人は本や雑誌や新聞から情報を得ます。社会や別の世界のことを知る上で欠かせないメディアです。できれば、もう一つの有力なメディアである「人」も加えましょう。双方向交流を通じて地域のことを知り伝えることができる知人は貴重な存在です。
交流を通じて、自分は人に支えられている、自分もどなたかの役に立てているという自覚が生まれてきます。交流と人間関係の変化が、生き方をポジティブかつアクティブに変えてくれます。
いつの時代も人は交流してきた
辞書的な意味で言うと、交流とは「異なる地域や組織の間を人やモノが往来すること」です。人々が行き来すれば集うようになり、集えば語り合い、情報を交換するようになります。
歴史的には古代ギリシアの「アゴラ」が公共空間としての広場で、様々な交流がおこなわれていました。古代ローマでは「フォルム」と呼ばれました(今ではセミナーのタイトルなどによく使われる「フォーラム」の起源です)。いずれの場も自由度が高く、相互関係のあるふれあいと活動、語り合いが活発でした。これらの古代広場は遺跡として今も残っています。
交流の目的が政治や経済であれ、イベントや集いであれ、活発に機能しているかぎり、社会は健全であり人々は健やかであったと想像できます。
時代は変わっても、国際交流や地域交流、文化交流など、交流は重要なキーワードであり続けています。
コロナ禍を経験したわたしたちは、人とふれあえない、自由に飲食を楽しめない、外出の自粛を余儀なくされるという寂しさと辛さをあらためて実感しました。シニアの皆さんが以前のようにリアルな人的交流を安心して楽しめる日が早く戻ってくることを願うばかりです。
自分なりのつながりのイメージと方法を描く
自立的でアクティブなシニアなら何でも一人でできてしまいます。日曜大工にしても、器用な人なら材料を買って自分で道具を使い完成させてしまいます。誰の手も借りることはありません。自分で料理を作って自分で食べる、自分で淹れたコーヒーを啜りながら読書を楽しむ、一人で都心まで出掛けて観劇を楽しみ、レストランでディナーを味わう……頼もしいかぎりで、理想のシニア像と言えるでしょう。
でも、ここでもう一段上の理想を考えてみましょう。自己完結できるそんなシニアとのつながりを実はコミュニティの方が求めているのです。同時にまた、そんなシニアにとって交流を通じて新たな健康維持のきっかけが生まれる可能性もあります。
集いの目的が趣味であれ学びであれ談話であれ、交流の場にはスキルや動機付けが異なるシニア世代の人たちがいらっしゃいます。「さあ、交流するぞ!」などと肩ひじを張る必要などないですし、自分のペースを守ることが大切です。人それぞれの地域や仲間とのつながり方があるのですから。
交流マインド、大まかな心掛けでOK
あくまでも自分らしい地域とのつながり方が基本です。特に閉じこもりがちなシニア、アクティブだけど交流機会の少ないシニアには次のアバウトな目標がおすすめ。
グランドマストが実践する地域のリアル交流
あまり交流してこなかった人も、交流は楽しむほうだが初めての場では人見知りするという人も、決して無理に背伸びをする必要はありません。いきなり高いハードルに挑んでうまくいかないと、人間関係上のトラウマになることもあります。
上手な交流の秘訣は「近くから、軽やかに、日常的に」です。挨拶プラスアルファの会話を交わすだけで十分です。そして、交流の楽しさ、交流で気分も身体も元気になっていく実感が湧いてくれば、徐々に参加するイベントや学びの機会を増やしていけばいいでしょう。
ここでは、グランドマストで生活されているシニアの皆さんが、日々いかに接したり交流されたりしているか、いくつかの実例をご紹介します。
交流シーン①リビングアテンダーとの関わり
ホテルのコンシェルジュに近い役割を果たすリビングアテンダー。グランドマストではエントランスを入ったすぐのフロントに常駐しているので、住宅内で一番の顔なじみ的存在として親しまれています。
全員が接遇とサービス対応のプロフェッショナルですから、入居者様一人一人のニーズと個性を十分に認識しています。いつもの挨拶から今朝の調子や今日の予定の話へとお喋りが続いていきます。どんな小さなことでも問えば、まるで身内のように適切な答えを返してくれるでしょう。
「いつも顔を合わせているうちに、入居者様がまるで自分の親のように思えてきます。外出していろんな場で交流されて戻って来られ、今日はこんなことがあってね……と語りかけてくださる人も多いです。わたしたちとのさりげない接点がアクティブな交流のきっかけになっているようでとても嬉しいです」(リビングアテンダーNさん)
交流シーン②入居者さま同士の交流
入居者や地域の方々との
憩いのカフェや交流スペースが充実〈グランドマスト横浜浅間町のケース〉
1階にある「おひさまプラザ」はカフェを併設。ご入居者様や地域の方々の談話やふれあいの場になっています。さらに、体操教室として使える「アクティブスペース」、お母さんたちが子どもと一緒にサークル活動できる、キッズコーナー併設の「カルチャースペース」、仲間と料理づくりを楽しめる「キッチンスペース」など、交流スペースも充実。住まいと同じ施設内なので、無理せずに気軽に交流のひと時を過ごすことができます。
2階には、学習室や会議室などの公共スペースを備えた地域施設の「横浜市浅間コミュニティハウス」があります。図書機能が充実しており、マイ書斎のように利用でき、読書や調べものにも便利です。知り合いになった人との読書談議に花が咲くかもしれません。
入居者さま主催の映画鑑賞会で交流を深める〈グランドマスト戸田公園のケース〉
映画がご趣味の入居者さまのご提案から始まった、入居者向けの映画鑑賞会。主催者ご本人が所有されているBlue-Rayを活用し、食堂に設置された65型の大型テレビを銀幕に見立てて開催されています。水曜日13時からの回を月4回、日曜日には長めの映画を月2回のペースで上映。上映回数は既に150回を超えているとのこと。入居者の皆さまに好きな映画やジャンルのアンケートを取り、なるべく希望に応えられるよう上映スケジュールを計画。主催者さまは映画の選定には苦労しておられますが、喜ぶ顔が見たくて続けておられるようです。コロナ禍で外出機会が減っていることもあり、入居者の皆さまから大いに好評を博しています。
交流シーン③地域交流の理想像
コミュニティに活気をもたらす、日常的な多世代交流〈マストライフ古河庭園のケース〉
東京都北区西ヶ原に位置する『マストライフ古河庭園』は、高齢者住宅と子育て支援住宅が同一敷地内で共生する複合型賃貸住宅です。多世代交流が日常的なので、コミュニティには活気が溢れています。シニアの皆さんは、社会から孤立せずに暮らしていると実感されています。子育て世代の親族が近くにいる安心感は幸せこの上ないですが、お互いの世帯の自由・独立性・プライバシーが尊重し合えることが喜ばれています。
居住者同士のイベントや趣味の活動なども充実しています。子育て世帯と高齢者世帯の交流が特徴の住宅ですから、建物内の多目的ルームや食堂、屋上庭園はいつも有効的に利用されています。入居者どうし、地域の人々、そして近親者と交流できる理想のコミュニティと言えるでしょう。
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