LIFE STORY03

趣味とともに広がる生活圏
(趣味と暮らす)

趣味とともに広がる生活圏

書の筆運びとカメラの手触りが〈続・青春日記〉を綴り始めた

 来年、ついに後期高齢者の仲間になる。残念そうな顔をしてそう言ったら、米寿の女性に「ふふっ、まだ青年ですね」と微笑まれた。「青年? ご冗談を」と言いかけてやめる。たしかに、苦労知らずの自分は今も青年時代を引きずっているかもしれない。まずまずの現役生活を終え、半世紀続けてきた趣味の書を楽しんでいる。作品が若いと言われて複雑な心境になる。

 筆を持たない日はない。書の制作には絵画制作並みのスペースがいる。一人暮らしにはやや広い間取りなのに、寝室ほぼアトリエ状態。加えて、友人に勧められて最近写真を始めた。すでにカメラも2台、道具を揃えたがる性分が出てレンズやアクセサリーも各種。額に入れた未熟な写真が壁に点々。遊びに来た仲間の一人がアトリエではなく「アジトだ」と言う。

 冷やかされても内心は喜んでいる。アジトで上等。趣味の基地はひそかな理想だった。最近は、書の作品を譲って欲しいとか手ほどきして欲しいとか言ってくださる。書と写真の併せ技でとても幸せな日々だ。カメラが書に光を照らしてくれた。広角レンズで撮り収めたくなるほど、わが趣味の生活圏は波状に広がっていく。写真の腕も上げるぞと自分を鼓舞している。